プノンペン風物詩:甘くて甘くて、のめやしねえ!

カンボジアにもようやく、常時接続のプロバイダが登場した。

s-0042WiMaxという技術を用いた通信方式で、ADSLと異なり電話線が必要ない。つまり、悩みの種だった「猿みたいな人たち」が経営する電話会社のラインを使わなくて良いというすばらしいメリットを享受できる。

テレサーフ事務局からやってきた労働者が、直径八メートルほどの棒を屋根に立て、その棒に平面アンテナをくくりつけて帰っていったのは四月はじめ。雷が多い時期だけに、このでかい棒を見た瞬間いやな予感が頭をよぎるが、アースしてあるから大丈夫だよ。と軽い口調で言われた。

といっても、電子工作に使うような細いリード線が地面の箸みたいな棒にくくりつけてあるだけ、でもまあ、何とかなるんだろう。

アンテナの準備はできたが、一週間後。ルーターの役目を果たす「スピードボックス」という箱の設定をする男がやって来るまで、なにもできなかった。プノンペン全市の需要を、彼一人で処理しているとのこと。奴の携帯電話は10秒おきに鳴りっぱなし、目の下にはうっすらとクマができている。いまカンボジアで最も忙しい男だろう。

今週、カンボジアは正月(タイではソンクラーン)に当たる。そ去年は町のあちこちで、ソンクラーン並みに派手な水掛けをやりあっていたが、今年は市の意向により、プノンペンでは水かけ禁止。水鉄砲の所持と売買までが罰則の対象となるそうで、そんなものよりもっと規制することがあるだろうよ‥‥と63stの売春宿を横目で見ながら、でも規制はよくないよなあ。と偽善ぶってみたり。というわけで、今年の正月は静かに過ぎてゆく。

この頃、日本から遊びにきた下条君は郊外のベトナム売春村にいた。村のカフェでコーヒーを飲んでいると、近くに座る初老の男(こいつも日本人)がアイスコーヒーを注文したという。しばらくしてコーヒーが届き、男が口をつけた瞬間、野太い叫び声が響いた‥‥。

「アッ。甘めえ。こんなの甘めえコーヒー飲めるかよ!」

下条君はこの独り言を聞いて、てっきり話し掛けられたと勘違いしたらしい‥‥。

「そんなに甘いなら、砂糖を入れるなって頼んだらどうですか?」

男はなにごともなかったかのように、一人つぶやきを続ける。

「キャピトルのアイスコーヒーはブラックなのに、なんだこれ!」

そう言うや、出来たてのコーヒーを床にぶちまけた。静まり返る店内‥‥。視線をそらす客。従業員はこの手の客に既に慣れきっているらしく、あまり気にしていなさそうだった。

「甘くて甘くて、のめやしねえ!」

下条君は新年早々、いいものを見たと喜んでいた。
(文・クーロン黒沢)



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