人差し指の肉がえぐれ、真っ赤な血がドクドク噴出している
尾藤さん(仮名)はラジコン狂である。しかもモノを買うときは必ず二つずつ買うという妙な癖がある。
隠し撮り用のナイトショットハンディカムもデジカメも、わざわざ二個ずつ買ったらしい。で、ラジコンについても同じ種類のマシンを二つずつ買っており、今回はプノンペンまで不要なバギーを一台持参していた。
僕もまた、部屋の隅で塩漬けしていたラジコンボートを久々に見せびらかそうと電池を入れ、郊外のキエンスワイという行楽地へ出発。
キエンスワイはプノンペンから国道一号線を約20分南下したところにある。流れがなく、美しくない川沿いに、四畳半ほどの小屋が沢山浮かび、カンボジア人は休日になるとここにきては、飯を食ったりビールを飲んで一家団欒する。
そんなもののどこが一体楽しいのかはさておき、隣り合った小屋同士はベニヤの壁でなんとなく仕切られているだけなので、近くの置屋から女を連れてきては乳をもんだり(川に浮かんだ船からは丸見えだが、それもまた風流)、女がいない人には親切な店の人が、その手の女をあてがってくれるというサービスもある。むろん有料だが。
そんなわけで、プノンペンでおおっぴらに浮気できない旦那たちが家族に隠れて大勢やってくる、
土日は家族連れでにぎわうが、平日は上記のようなエロ親父中心。水小屋の床は川の水面から20センチ程の高さなので、ラジコンボートで遊ぶにはもってこいである。座礁したり電池が切れたときには、そのへんのガキに500リエルもやれば喜んで川に飛び込み、拾ってきてくれる。。
さて、ラジコンと言えど、まあまあ本格的なものなので、剥き出しのスクリューはかなり怖い。で、尾藤さん(仮名)が船をいじくっていたそのとき、突然轟音とともにスクリューが激しく回転して尾藤さんの指に当たり、辺りに血が飛び散った。
「うおおおおお!」
見ると人差し指の肉がえぐれ、真っ赤な血がドクドク噴出している。普段から神経質な尾藤さんは、蚊が腕の上にいても決して潰したりせず。フッと息をかけて蚊を逃がす。ラマ教にかぶれているのではなく、潰した蚊がもし他人の血を吸っていて、その血が傷口から入ったら病気が移るでしょ‥‥だそうで、でもこのスクリュー。緑色したこの川の中で十回以上遊んで、まだ一度も洗ったこと無いんだけどね。
それでも尾藤さんはラジコンボートで遊び、さらに船の電池が切れた後はラジコンバギーを取り出して、近所の野良犬を追い掛け回していた。かなり大きな犬でもラジコンには免疫が無いらしく、悲痛な声をあげながら尻尾を股にはさんで逃げてゆく‥‥。
ひとしきり遊んで会計。結局、血まみれ騒ぎでコーラ一本しかオーダーしなかったので勘定は一万リエル。小屋の借り賃が五千リエルで、二千はコーラ代。残りは不明瞭だが、このへんにはぼったくり店も多く、コーラ二本で70ドル請求された人もいる(若い衆がカネを払うまで出してくれない‥‥)ので、まあこんなものだろう。
帰りがけ、傷口を消毒するためクリニックを探すが、こういう時に限ってわかりやすい場所に無い。