ひとくちブックガイド:最強の男となるための心構え10

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高校時代、池袋でどう考えてもキチガイの人から「ウォアアアアア」という雄叫びとともに100メートル程追いかけられ、切実に強くなりたいと感じた。

腕立て伏せでもすれば良かったのかもしれない、しかし、楽して強くなりたいと思っていたわたしは近くの書店に走った。すると、目立たないところに禍々しいオーラを出す本の群れがあった。

まず手に取ったのは、そのものズバリの「ザ・殺人術」。マリファナでお馴染みの第三書館の本である。サブタイトルは「殺されないための究極のノウハウ77課」で、まさに求めていたものと一致する。

早速買って読んでみると、真っ先に目に入ったのが「コマンド絞首法(背後から針金で首を絞める)」「殺人犬の訓練」「ブービー・トラップ」「手製ピストルの作り方」など、これぞ陰湿オン・パレード。巻末の著者近影を見ると、浦見魔太郎をハーフにしたような毛唐がピストル持ってポーズをつけていた。ていうか、殺人犬を訓練するんなら、空手教室にでも行ったほうが……楽だ。

気をとりなおして、もっと正々堂々とした本を探していると「喧嘩芸骨法」(堀辺正史)という本と出会った。

骨法……。格闘技好きの人なら一度は耳にしたことがあるだろう。著者の堀辺氏は麻原ライクなヘアスタイルに天狗ヒゲ。という非常にわかりやすい人だが、自称・源氏の末裔。親父さんは1200年前から一族のみに極秘で伝えられる謎の古武術・骨法の使い手で、秘密警察のメンバーであるとともに、東条英機のボディーガードでもあった。そうな。

で、骨法がいかに凄いかというと、始祖と言われる大伴古麻呂という武将が、戦場で四人の屈強な武士に行く手を阻まれたとき、手を触れるだけで四人とも即死させてしまった……という逸話が残ってるのかどうかしらないが、あったそうじゃ。

ミスタースポック(バルカン星人)は手を触れただけで相手を失神させることができるそうだが、さらに凄い……。
 ウーム。手を触れるだけで即死! 間違えて母さんに触ったら即みなし子? ガールフレンドの肩に手を置いたら即独身!? などという子供じみた心配はともかく、わたしは堀辺氏の自信満々な語り口と、一撃必殺の骨法に強く惹かれたのである。だけど道場に通うのは面倒臭かったので、本で習得しようと考えた。ハハハ。

読み進むうち、少年時代の思い出話、骨法を学んだものが心得なければならない精神論、六人のヤクザをボコボコにした自慢話などに混じって、実践的な喧嘩テクニックが写真付きで紹介されている。どれも一撃で相手を戦闘不能にしてしまうような非常に強力な技で、ためになること請け合いだ。

だけど、失敗したら怒った相手から逆に殺されてしまうかもしれないので要注意。で、後半は堀辺師範が外国(インド・中国など)の猛者を血祭りに上げた自慢話がフルスロットルで続くため、もうちょっと実践的なエキスが欲しいという場合は、続編「必殺・骨法の極意」を読むべし。

こちらは与太話が比較的少なく、純粋にテキストとして活用できる。活用しすぎて怪我をしてしまったら「骨法の秘密―ホネを直せば万病治る」で、さっさと直してしまおう!

追記、これを書いた4年後の夏、新大久保の喫茶店で堀部氏に遭遇した。本そのままの山伏みたいな風貌。愛人らしき女性と何やらコソコソ話していたぞ(2009年)。
(文・クーロン黒沢)



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