ひとくちブックガイド:成金と言われてもいい!
景気が悪いというのに周りがどんどん金持ちになってる。アキバにマンション買ったり、スーパーカーを1ダース買ったり、ちょっとフランスまで行ってきたり。趣味はヨットだったり……。羨ましい。キィーッ!
俺はボロ車のタイヤ交換ごときで悩んでいるというのに! チンコのいじりすぎか、若しくは生き方に問題があるのではと思い、成り上がった男たちの本を参考にしようと考えた。ふと手に取ったのは、書棚で埃をかぶっていた「タフ&クール―Tokyo midnightレストランを創った男」。なんでこんな本買ったのか記憶すらない。
長い長いタイトルの中に「を創った男」しか日本語が含まれていないことからもお分かりの通り、著者の長谷川氏は国際結婚を二回経験した国際人デース。かみさんはどっちも金髪で、ハーレーのポスターに出てくるような女だってよ。ブルンブルン。
ま、本の帯に「ほんとのベンチャーってのはこいつのことさ」と意味深なコピーが印刷されていたので熟読。長谷川氏の実家は古くからの酒屋兼米屋で蔵が沢山あり、親の意向で厳格な(幻覚なではなく)カソリック学校に入学させられ、まもなく反逆児として地元で悪名を上げたそうな。
という下りまで読んで、早くも「スタートラインが違いすぎる」と意気消沈。その後の長谷川氏は早稲田大学を中退。フリーセックスの国・スウェーデンを旅し、北欧においては「お茶を飲みましょう」が「一発やりましょう」と同義語である。と新たな学説を発表。
ここで最初のかみさんをゲットし、高田馬場に北欧館という喫茶店をオープンする。が、仕事に没頭しているうち妻との溝が深まり離婚。ショックを受けた長谷川氏はチンコが起たなくなってしまい、すわ、宦官か! と思いきや、深夜の六本木で「家まで送ってよ」と声をかけてきたオーストラリア人女性との行きずりセックスを通してインポテンツを克服。
と、万事タフ&クールである。007シリーズの原点はこれだ! と言われたら、そうなのかと思ってしまうほど。読んでるだけで自分の人生がバカバカしくなってきた。やめたやめた!
もっと身近な成り上がり人は……と探していると、書棚の片隅に「浮浪者からホテル王になった男」という本を発見。浮浪者なら勝てるかも……と喜んだのもつかの間。乞食からホテル王、つまりは豊臣秀吉レベルの成り上がり人にも関わらず、モデルになった当人の経歴が非常にあやふや。目次を見ても「ヤクザを負かす唯一の方法」「いらない服で一千万円稼ぐ方法」「安全剃刀をインドで売る方法」と、伊東家の食卓のようでもあり、しかし細かい部分があやふやなので肝心の生き様がぜんぜん見えてこない。個人情報を伏せてもらいたい事情でもあったのだろうか。
結局、主人公である元浮浪者の「音痴さん(通称)」は、最後にタイのバンコクにホテルを買い、その事業をもとにアジア各地でホテルチェーンを作り、60何歳で永眠。でもそのホテルの名前や規模などは一切伏せられていて、謎に包まれている。バンコクにはこれまで百回以上行ったが、「ホテル音痴」という建物は未だ見たことが無く、うーん。でも、ドキュメントって書いてあったし……なあ。
このままだとひょ、ひょっとして成り上がれないかも、と、最後に手にとったのが「安売り一代・秋葉原闇の仕事師」である。モデルは30歳以上で秋葉原に通っていた男なら誰しも知っている、今は亡きバッタ屋「マヤ電機」の社長。
マヤ電機といえば、一時期秋葉原でパソコンが最も安い店、つまり、日本で一番の安売り店として名をはせ、わたしも何度か値段を聞きに行ったことがあるが、当時としては店の作りがあまりに胡散臭かったため、買い物をしたことはない。確か、横にオウムの店ができたとき、名前が似てたんで潰れちゃったんだよなあ……。
12〜3年くらい前まで、秋葉原のガード下や岩本町界隈には表にダンボールを積んだ怪しい民家が沢山あった。メーカーからではなく、怪しげな人物からわけあり品を格安で大量に仕入れ、叩き売るバッタ屋である。
どんな訳があって安いのかは、仕入れに関わった者のみぞ知る秘密。もちろん犯罪と関わりのある商品もあり、金や商品の受け渡しは基本的にこそこそ行われる。
客は看板を持った白内障の客引きから言葉巧みに導かれ、鋭い目のブローカーが足繁く出入りし、メーカーや普通の量販店からは白い目で見られていた。
てなわけで、はじめは大規模店の勤勉な奉公人だったマヤ社長も、独自の激安商法が大当たりすると例に漏れず成金化してゆき、金を目当てに集まってくる怪しげな連中との交遊がもとで、最後はマルチ商法の親玉を目指すところまで突き進んでしまう。
最終的には「金なんか持っててもロクなことがない」という慎み深い結論に達し、全国の成り上がり予備軍を萎えさせてしまうのでした。
(文・クーロン黒沢)