カンボジアの寿司職人。食べる勇気があればの話だが。
明日バンコクへ出るんでチケットを買いに行った。お寺の横の代理店で122ドル(往復)。半年前に170ドル近く払っていたことを思うと、随分安くなったものである。96年あたりには往復99ドルというエアラインもあったけど、潰れました。
ズバリ。今日の用事はこれだけだったので時間が有り余る……。そこでプノンペンに昨年登場した、マーブンクロンセンター(バンコク)を70倍しょぼくした感じの「ソリヤセンター」に行ってみた。
ソリヤセンターは中央市場近くのごちゃごちゃした一角にある。このへんにはちょっとした赤線地帯や連れ込み宿、廃墟、博打屋が密集して(まあ、プノンペン中どこも同じような感じだが)余りパッとしないエリアだったが、ソリヤセンターがオープンしてからは地元の小金持ちが一張羅を着て集まるようになり、繁栄の度を深めている。
ソリヤはカンボジアでただひとつの冷房・アンド・エスカレーター完備のショッピングモール。オープン半年目にしてテナントの埋まり具合は60パーセントといったところで、エリアによっては物陰から出てきたチンピラにカツアゲされそうなほど寂しいが、それでも三年前からすると夢みたいな建築物である。
最上階にはちょっとしたクーポン食堂が、そこには寿司バーもあって江戸前のにぎり寿司を食べることもできる。‥‥食べる勇気があればの話だが。
常駐しているのはローカル寿司職人。何処で何年修行したかは怖くて訊けないが、あらかじめ団子状に握ったシャリの上に震える指でサーモンの切れ端を置く姿は、あえて公開せず、カーテンかなんかで隠した方がいいと思った。
それでも、ありきたりな料理を売る他のブースと比較すると、目先の変わった創作料理を売ろうという心意気だけは評価してあげたい。だが、生魚などこの国ではまだまだゲテモノ扱い。最近水道の生水を飲んでも腹を壊さなくなったわたしでさえ怯む代物を、まっとうな日本人が食う筈もなく、あのペースで握ってると恐らく毎日大量に売れ残る計算になるのだが、誰が敗戦処理しているのか、少し心配。
4階だかのゲーム屋を13分間うろつき、目的のものが無かったのでソリヤセンターを出て、シアヌーク通りのJAVA CAFEでB君と待ち合わせ。薬臭い汗が止まらないというB君の愚痴を聞く。
柱を挟んで我々の後ろには、白人の母子がいた。子供は推定二歳半‥‥。で、わたしはタバコを吸うので、一応気をつかってエアコンの無い外の席を選び、煙は反対方向に吹いていた。
それでも後ろの方から聞こえる「ヴンヴヴヴン‥‥!」という母親の迷惑そうな咳払い。でもここはプノンペン。悪のパワーが善のパワーよりも強い町。男はタバコを吸って一人前の町。なので、わたしはシカトした。タバコがいやならスイスにでも行きな! 大麻じゃねえだけ感謝しな!。と脳の奥でささやき声がする。
そんなわたしも、1月に中華人民共和国の某市で愛煙家たちの無軌道ぶりを見たときは心を痛めた。
その町では、視界に入る男が全員喫煙していた。スモッグで町全体がもやがかっていたが、ひょっとしてこれはタバコの煙なのではと思う程。で、とあるかなり高級なホテルに入った際も、男は全員タバコを吸っていた。そして、灰皿が目の前にあるのに、皆吸いかけを絨毯に捨てて、足でグチャグチャに踏み消していた。
エレベーターの中でも全員吸っていた。それも皆、携帯片手にでかい声で喋りながら。マナーなんて糞食らえ。注意する奴が変人だと思われる張り詰めた空気。これぞ弱肉強食、スモークオアダイ。男の世界だと思った。住みたいとは思わなかったけど。