栃木の山奥でレザーフェイスみたいな人を発見
母を案内して日光へ……。どうでもいいことだが気違いと遭遇。目的地である建物に車を停めると、建物前の路上を七色に輝くきれいな虫が歩いていた。ああ、きれいだなあ。と感心していると、250ccの薄汚いバイクにまたがった60歳代、晩年の川谷拓三風な男が登場。
最初は何とも思ってなかった。拓三がわざわざ俺の目の前を朝鮮人民軍のパレードみたいな歩き方で行進し、半笑いで七色の虫を踏み潰すまでは……。拓三(仮名)はその間もずっと独り言をつぶやいていた。気違いの基本中の基本である。
建物に入って約40分。出てくると、拓三はまだそこにいた。というか、バイクにまたがり、エンジンをかけた状態で僕を待っていてくれたようだった。そして、先ほどより少し大きな声ではっきり話しかけてきた。
「あのーそこに車置かれると迷惑なんだよねーバイクが通れないんだよねー邪魔なんだよねー動かしてくれないとバイクで通行できないんだよねー」(息継ぎ無し)
こう言われると、まるで私が迷惑駐車でもしたように聞こえるが、こっちの車はガラガラな駐車場の白線内に入れてある上、18輪トレーラーが二台すれ違える程のスペースを残していた。むかついたので無言で睨むと、何を思ったのか拓三は拝むように手をこすり合わせながら、
「いいんだよ。いいいいいんだよ。ゆっくりしてくれればいいいんだよ。いいんだいいんだいいんだいいんだ‥‥(繰り返し)」と言った。
薄気味悪さを感じつつ車に乗り、顔色の悪い母と出発。二分後、何気なくバックミラーに目をやると、バイクに乗った拓三が私の車を追っていた。本気で背筋が寒くなった。あいつ、なんで追跡してるんだ!?
スピードを上げると、拓三もスピードを上げる。試しにノロノロ走ると、拓三も速度を落とす。因みに現場は車も殆ど走っていない寂しげな峠道。両側は林に囲まれうす暗い。殺人鬼!?
母は顔面蒼白だった。仕方なく路肩に車を寄せ、襲いかかってきたらバイクごと踏み潰してやろうと決意を固めた。が、そんな私の思いが通じたのか、拓三は半笑いで真横を通り過ぎ、前方を向いたまま走り去って行った。
これまで数え切れない程のキチガイを見てきたが、バイクでパトロールしてる奴は初めて。日本は恐ろしい所だと思う。
用事を済ませ、どこか寄っていこうという話になり、日光江戸村、猿軍団と色々候補は上がったが、いまひとつ気が進まなかった。
数年前、日光江戸村で巡回中の水戸黄門と口論になり(しつこく写真を売りつけてきた)、殴り合い寸前までいったイヤな思い出が蘇る。なにせ相手は天下の副将軍。死ぬまで忘れないだろう。
なら日光猿軍団を見ようという話になって、とても高いチケットを買わされた。広々とした場内は超満員。背後にはテレビにも良く登場する校長の超巨大な肖像画と、校長と地元の政治家やら有力者が一緒に映った生々しい記念写真などがこれ見よがしに飾られ、いやなオーラが充満している。それでも客の大半を占める子供達は楽しそうだった。
場内が暗くなり、エーッサエッサエッサホイサッサという曲に合わせ幕が上がると、女性の調教師とサルが10匹程登場、ひとしきり芸を見せてくれた。これがなかなか微笑ましく、場内の中年男たちも思わず和やかな笑顔を見せてしまう。
ところが……だ。女性(前座)の次に登場した角刈りのメイン調教師の芸が始まった瞬間。場内は静まり返った。なにかの拍子でサルが言うことを聞かず、角刈りが本気でキレ始めたからだ!
「てめえよぉ、ここに立てオラァ」
興奮で裏返った声がマイクを通し耳に突き刺さる。角刈りは罵声を浴びせながら、直立不動の姿勢をとったサルの頭を本気で殴る。高感度マイクが打撃音をリアルに拾いまくり、周りの子供達は泣く寸前、親たちもどうしていいか分からずオロオロしている。
角刈りは10回ほどサルの頭を殴り、ビンタすると、さも満足そうに、そして何事もなかったかのように舞台を再開。しかし冷え切ったムードはどうにもならず、終わった後は放心状態。大迫力の動物虐待ショーを間近で見せられ、冷凍マグロのような固い足取りで会場を後にした。もう二度と行かない。
(文・クーロン黒沢)
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