プノンペン職人列伝 平凡なパンク修理屋に匠を見た!
プノンペンで避けて通れないのがバイクのトラブル。劣悪な道路事情も相まって、パンクは日常茶飯事です。
待ち合わせ直前のパンクは最悪。遅刻の理由にパンクが多すぎるもんだから、相手も本当にパンクしてるのか? タダの寝坊じゃないかと疑いを抱きがち。そんな大ピンチに駆け込むのがパンク修理の露店。パッチで対応できる軽いパンクであれば、1ドル以下で直してくれちゃいます。安い!
しかし、所詮は1ドル弱でパンク修理する連中ですから、技術レベルはピンきりです。ろくでもない修理屋に当たったら最後、乗り出した途端にまたパンク。隣の修理屋に駆け込むなんてことも……。
そんな運次第のパンク修理屋選び。風の噂で日本人の職人に勝るとも劣らない、技術屋魂を持ちあわせたスーパー職人の噂をゲット。最近やたらと流行中なソムノンドッビー市場近くに彼はいました。
看板もなければ名刺もない、そんな店ですが、確かな技術を求めるお客がひっきりなしに訪れます。見るとオヤジひとり、せっせとバイクを直していました。身なりは他店より若干キレイかな? そんな第一印象の冴えないオヤジ。実はとんでもない奴でした。
拙者のオーダーは劣化したタイヤとチューブの交換。価格は工賃込み25ドル。ホンダショップで30〜35ドルですからお得です。早速準備に入るオヤジ、今日は息子も助手についてます。鮮やかな手つきで後輪を外しました。職人の爪、キレイにカットされてました。
在庫のないタイヤを職人自ら買い出しに出かけると、留守居役の息子がホイールからチューブを取り出し、段取りを整えます。日本なら普通の常識ですが、この国で段取り仕事のできる人間は貴重です。
さて、工具箱を見てびっくり。使用工具がきっちり並べてあります。メーカーの直営工場以外でこんな光景見たの、生まれて初めて──。店と呼ぶにはあまりにみすぼらしい青空商店。屋根もなければ壁もなし。しかし整理整頓は徹底しています。
「技術の有無は工場の整頓具合でわかる」とはよく言ったもの。この店は完璧! と、しばらくして戻った職人が交換を開始します。段取りができてるから早い早い、作業時間10分でタイヤ交換が完了。鮮やかな手つきに拙者、感動を覚えます。
会計時、あるものが眼に留まりました。職人の私物であるバイクの上に今日付けの新聞が──。この人、何と新聞の読者だったのです! 聞けば、毎日読んで最新情報をゲットしているとのこと。
パンク修理工といえば、ボロボロの身なりに汚い手、バラバラの工具とオヤジの汗臭さ、そんなマイナス要素ばかり頭に浮かびましたが、素晴らしい店もあるもんですね。素晴らしい職人に乾杯。
(文・木村五兵衛)
すいません。ソムノンドッピー市場は、どこにあるのですか?
中古のバイクを修理したいので、教えてもらえれば、助かります。