ひとくちブックガイド:ゲイは身を助ける
日本のフェラチオ起源は奈良時代あたりまで遡るそうだ。奈良時代といえば、中国から張り型などのオナニー道具が伝わったのもこの頃。さぞかしエロい時代だったのであろう。
さて、奈良時代のフェラチオは女→男ではなく、男→男が主だったそうで、つまり男色はこの頃から盛んだったらしい。戦ではくじびきで負けると部隊内で歯を抜かれ、フェラチオ兵として荒くれ武者どもの慰み者になったりといった、ウソ臭い話も伝わっている。
ホモの事情を知りたければ上野の映画館に行くなり、新宿でホモ雑誌を買うなりすれば済むことだが、お勧めの本があります。今では手に入りにくくなってしまったが、最初に紹介するのは官能作家・阿部牧郎の自信作「蝶になる日」。
プノンペンで古本屋をしていたとき、不在時にカンボジア人の従業員が日本人X氏(正体不明)から2ドルで買ってしまった本。この従業員は大川隆法や創価学会の本を沢山買って、店に大きな損害を与えてくれたロクデナシだ。売りに来た奴もむかつくが。
初めてこいつを手に取ったとき、官能小説ならひょっとして売れるかな。と頁をパラパラめくると、主人公はパリにやってきたデザイナーの卵(男)。ある日、バーで話しかけてきたパリジャンと一夜限りのアバンチュールを体験したことがきっかけで目覚めてしまい、毎晩酒場をクルージング……。
えーと、パリジェンヌは女だから、パリジャンは男だよな。そうすると、えーと、ホモ小説かよ! と、怒りに震えた思い出がある。でも暇だったので二度読み返してしまった。
もう少しまじめなゲイ本では「ゲイ・リポート―coming out! 同性愛者は公言する」。古い本だが300人のゲイに取材しただけあり、ゲイの好きなものだの、ゲイが恋人と行きたい場所はあそこだの、巻末のアンケートはボリューム満点。
しかしながらゲイの市民運動家が書いてるだけあって肩が凝るほどまじめ。同じ市民運動家でも、雑民党の東郷健が書いた「常識を越えて―オカマの道、七〇年」はえぐすぎるし、両者の中間くらいの本はないかなあ……。と思ったら「ホモタイム」という一冊があった。「小沢一郎がオナペットの美少年」「チビ・デブ・ハゲが救われる(そういう趣向のジャンルがあるから)」など、軽いオカマ言葉のエッセイが詰まったいい本だ。
さて、奈良時代はともかく、戦争中、男ばかりの戦場で男色が顕著になるのは本当らしい。「ピンク・トライアングルの男たち―ナチ強制収容所を生き残ったあるゲイの記録 1939‐1945」という長いタイトルのお勧め本がある。
著者はナチス政権当時、退廃的という罪で逮捕され、同性愛者の印であるピンク三角形の印をつけられて収容所に送られたホモだ。
取調べから「穢れた豚野郎」と罵られ、輸送中に監視員から「ペニスを吸え」と強制される著者。収容所ではSSから「寝るときは布団の上に手を出しておけ。おまえら、ホモのまぬけどもが自慰にふけらないようにな」と侮蔑の言葉を投げかけられ、足を踏まれ、潔癖症のSS指揮官、通称「ほこりちゃん」が房から埃を見つけるたびにいびられていたが、次第にリーダーとして頭角をあらわし、様々な特権を享受しながら気にいった若者をつまみ食い……。
そうしてる間に戦争は終わり、彼は今まで受けた迫害への損害賠償を求めて立ち上がる。が、「そんなこと言ったってオメエ、実は結構楽しんでたんだろ」と相手にされず、憤りまくっているようである。
(文・クーロン黒沢)