忘れられた人々:中国に400年続く精神病院の真っ暗な実情

香港在住経験の長い明日香氏(仮名)と話をしていたときのこと。

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「むかーし香港に居たとき、知り合いにホモの毛唐カップルがいてよう。あ、尻愛じゃなくて知り合いなんだけど。ハッハッハッ……(絶句)、そいつらに勧められた写真集があってよう、中国の精神病院を撮った写真集で、すげーんだよこれが。見たらびびるよ」
「ほう」
「山の岩の中にキチガイ閉じ込めちゃったりしてるんだぜ」
「うへえ。まるで孫悟空みたいな話ですね」
「香港じゃ結構売れてたけど、図書館にも無いかもなあ。無いだろうなあ。持ってたけど引越しで無くしちゃったし」

こんなやりとりだった。

帰ってからもしばらく、その本のことが頭から離れず、なんとなく検索しまくってみると、何と日本語版が93年に出版され、しかもまだ在庫が残っている事実が判明。早速購入した。

念のため二冊も買ってしまったのはいいとして、友人の尾藤さんは「壊れたとき用」とかいってデジカメを二台ずつ買うおかしな癖があり、いままで笑ってきましたが、人のこととやかく言えません。

ついでに中国人の著者の名(馬小虎)も判明したので、そっちも併せて調べてみると、現在はエリート写真家の集団として高名なマグナムフォトに所属。公安に捕まってチベットあたりの監獄で石炭でも掘ってるんじゃ……と心配だったが、杞憂でなにより。

買って(カンボジアまで)届くまで二週間ほど。届いたものを開いてのけぞりました。これは……。えぐい。すっ裸で瓦礫の中に佇む女。なんでも服やシーツを与えるとビリビリに破いてしまうからだそうで……。病院に庭がないので、ちゃぶ台くらいの丸テーブルの周りを一日中ぐるぐる歩き回る集団。まさにミッドナイト・エクスプレス

暴れるので四年間鉄の鎖で床に固定されてるおっさん。水が少ない病院に閉じこめられ、下水の水をすする患者など盛りだくさん。などなど盛りだくさん。

時代劇のセットみたいな精神病院(四川省)。実はここ、四百年前のおんぼろ廟をそのまま使ってるのだそうだ。四百年前ったら、日本じゃ関が原の戦いとかしてた頃だよ! 因みに京都の二条城は徳川家康が1603年建立。例えるなら日本で二条城を精神病院に使うのと同じくらいのことを平然とやってのける。流石は悠久の中国だ。

そんな四百年前の建物でも、入院させてもらえるだけまだ幸せ。この本の被写体たち、大多数は入院患者だが、何名かは金がなく入院もさせてもらえず、結果、裏の炭釜に手錠でくくられ飼い殺しの女性、二年間木に縛られたままの青年、一家総出で気が狂ってしまい、娘一人が家族を養うため地獄を見ていたり──など、もう「カンベンして……」と叫びたくなる、暗い。暗い。お先真っ暗だ!

ヤバかったのは、冒頭で明日香氏も触れていた孫悟空青年だろう。村でたったひとり成都の大学へ進学した秀才青年。冬休みの帰省中に突然電波を受信して母親を殺し、父親に重傷を負わせた。

普通は刑務所なり病院に入れられるのが筋だろうが、色々事情があったらしく、村人たちが山に巨石を積み上げて作った出入り口の無いミニピラミッドというか古墳みたいなものに閉じ込められている。あるのは小さな窓というか隙間だけで、そこから青年の手首だけが出ていた。

巻末の解説では、貴州省にある精神病院の実情が語られていた。

ここでは年一回、春になると暇な村人たちが集団でやってきて、精神病院を「見学」する(十年以上も続いてる恒例行事)。見学者は患者をからかい、いたぶり、女性患者の服を脱がせたりして、散々やりたい放題の狼藉をはたらく。

で、言うことをきくとご褒美として残飯が与えられるが、村人たちの中には爆竹を仕込んだタバコなどを患者に吸わせ、爆発して顔面血だらけになった患者を見てゲラゲラ。ウッヒッヒ……という人も少なからず混じっており、職員が止めても聞く耳を持たず、逆にヤキを入れられてしまう始末。警察? そんなものに構ってるヒマはないらしい。

そんな本書の在庫は今のところまだ残っている。すぐ買え! そして、テニスが趣味で、軽く一汗流してドライブに行く途中の爽やかカップルとかに無理やり読ませて、地獄のどん底に突き落としてやるもよし……。
(文・クーロン黒沢)



“忘れられた人々:中国に400年続く精神病院の真っ暗な実情” への1件のコメント

  1. @ruriwo1119 より:

    忘れられた人々:中国に400年続く精神病院の真っ暗な実情 https://t.co/f0NmrJ15ya

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