歌舞伎町の地下寺院・皇帝に潜入してみた。でも失敗だったかも

かの歌舞伎町に地下寺院が存在し、そこでは占いと焼き肉が楽しめ、よしもとばななの日記で紹介されたお陰で路頭に迷う若き女で賑わっているらしい。

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いまいち整理されていない情報を得た私は、秘密礼拝所のようなものをイメージしながら、暇人のB君と連れだって、夜の歌舞伎町をさまよった。

大方の場所は調べてあったが、なかなか見つからない。30分ほどあちこち彷徨うもそれらしい建物は目に入らず、かわりにエロ情報満載の妙ちくりんな韓国人向け無料情報誌を貰ったりしつつの、しびれをきらしてC君に電話した。

C君は歌舞伎町に住む悪徳不動産業者で、先祖は忍者。特技はピッキングという25歳。24世紀頃には歴史上の人物として語り継がれているであろう、頼れる男である。

「というわけなんだけど、知ってる?」
「知ってますよ。なんならいまから案内しましょうか」

と、間もなく横断歩道の向こうから現地人ガイドが派手なスーツ姿で歩み寄ってきた。便利な町である。

三人で歩くことおよそ8分。職安通りの大使館(焼き肉屋・”焼肉大好き! ソニン”というソニン直筆のサインが飾ってある)向かいに、「皇帝」という毒々しい電飾看板の光る地下寺院の入り口が真っ黒な口を開けているのを発見!

「皇帝」の上には赤ネオンの卍マーク。そして、卍の下に「大光寺」という地味な看板。怪しいなあ……と右45度に首をかしげると、卍マークが一瞬ナチスの鉤十字に見えたりもしたが、それはそれ。どう考えても、まともな寺とは思えない。

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一歩一歩階段を降りてゆくと、寺の由来を示す電飾看板が! 微笑みを浮かべる尼僧写真の横には、こんな文句が記されていた。(長いので要約)

“韓国全羅南道出生。3歳のとき夢に千手観音が龍に乗って現れ、「おまえは前世で僧侶だった。この世でも出家して僧侶になれ! 普通の生活はできないよ!」 と、神通力を入れてくれた。その後、村の近くの百年寺で修行。

その後、夢の中の人たちが「天から神が降りてくる」と絶叫。空を見ると白馬にのった何とか天皇が現れ、私を誘って空にのぼり、お釈迦様と遭遇。釈迦は「おまえはこりから天衣をまとって人間界に戻って先生となれ!人々に運命を教えて未来を見せろ」とおっしゃった。

それからはソウルの寺院で修行。いろいろあって今に至る”
──悪霊払いもしておりますのでお気軽にお越し下さい。

以上。すげー怪しいなあ。と三人で盛り上がりつつ更に降ると大光寺の入り口。向かいには怪しげな飲み屋。呆然と立ちつくしていると、向かいの扉からロシア人ホステスがケータイでロシア語を叫びながら登場。

居づらい雰囲気なので「大光寺」側の自動ドアに向き直り、「押してください」と記された自動ドアのボタンをプッシュ……何も起こらない。またプッシュ。でも何も起こらない。むかついてガンガン叩くと、中で人影が動いた。

丁度頭のあたりまで曇りガラスになっていたため、ぐっと背伸びして中をのぞく。すると、金正男そっくりのメガネデブが奥からこっちを睨んでいて、目が合ってしまった、残念ながら歓迎ムードは一切感じられず。しばらくすると自動ドアが開き、電飾看板の尼僧そのひとが顔を出した。しかし彼女、坊主ではなく、おばさんパーマみたいな髪型であった。

尼さん「なんですか!」
私「こんにちは、営業してるんすか?」
尼さん「やってない!(ぴりぴりしている)」
私「あ(怒ってるのか?)。わかりました」
尼さん「ハイ!」──ピシャリ(手で自動ドアを閉める)

短すぎるファーストコンタクトは大失敗。ケータイ片手のロシア女に見送られながら階段をのぼると、出口付近に石仏(たぶん石膏)が一体置いてあった。どうでもいいけどこの石仏の胸のあたりに刻まれた卍が左卍ではなく、まんまハーケンクロイツの逆卍なのが気にかかった。
(文・クーロン黒沢)



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