ひとくちブックガイド:ああ、天風先生に捧ぐ!

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中村天風ってご存じ?

明治9年生まれ、子供の頃は粗暴で手がつけられず、喧嘩で相手の耳をひきちぎったりしたそうだ。しかし華族の生まれなので公にはならず、かの頭山満のつてで日本軍のスパイとなり人を殺しまくっていたところ、モンゴルだかで捕まって銃殺刑に処せられるが執行寸前に脱出!

その後結核にかかり不治と診断され自暴自棄になり、アメリカで結核の勉強をしてるうち医学博士になり、ヨーロッパをうろうろ。エジプトの安酒場で血を吐いていたところをインドのヨガ聖人・カリアッパ師に声をかけられ、徒歩でヒマラヤの奥地まで行って修行しているうちに達観。

ヨガの秘法で病気を克服した後、帰りがけ中華民国の政治顧問になるが、孫文が失脚して日本に戻り銀行の頭取に。が、ある時思うところあって社会的地位や財産をすべて投げ出し、人生哲学指南を生きがいに92歳まで生きる。代表的な弟子は東郷平八郎、原敬、松下幸之助、ロックフェラー三世だそうで、オカルト好きの京セラ社長も無論含まれる。……だそうな。

ふー、ふー、経歴書き写すだけで疲れちゃう。中村天風先生とは要するにレインボーマンみたいなおっさんなのだ。

そんなわけで、レインボーマン好きな私が天風先生の本を買ったのは言うまでもない。検索すると60冊以上出てくるので、一番売れ線だった三冊を買ってみました。

まずは日本経営合理化協会というところの「君に成功を贈る」。結構分厚い本だが開いてびっくり。小学三年生の国語の教科書ばりに字がでかい。大川隆法の本も字がでかかったが、あれといい勝負。この字のでかさには理由があり、主要読者とされる高年齢の実業家にも読みやすい配慮というわけだ。本当かよ!

本を開くと先生が語った内容をそのまんま記してあるのだが、「人の悪口を言ったり、怒ったりしてると心がどんどんマイナスにいっちゃうよ」とか「痛かったり辛いときは、笑うと自然に痛みが消える」とか、ぶっちゃけ、どうでもいい話がほとんど。でも、読み終えたあとひとまわり度量がでかくなったような幸せ気分を味わってしまうのは天風マジック。

続いては「運命を拓く」。これもまた、辛いときには「俺は幸せだ」と自分に言い聞かせ、悲しいことがあったら「ああ楽しい」。と、まったく同じパターン。ただ、天風先生のちょっといかれた昔話が沢山入っているので読み物としては楽しめる。一回読むとなんだかなぁ。百回読んだら「天風先生万歳!」となるのだろうか。

最後に紹介するのは、作家の宇野千代が感動の天風講演の内容をまとめた「天風先生座談」である。ちなみにこれ、値段が税込み552円と他の天風本と比べて恐ろしく安い。

内容はまあ、他の本と同じというと身もフタもないが、ところどころで宇野先生がツッコミを入れたりしてるので救いがある。というと、つまらない本のように思われるかもしれないが、自己啓発系の書物としては抜群に説得力があります。なんてったって、ロックフェラー三世ですから。

70年も講演してりゃ、累計された聴衆に二、三人、大物が出ても不思議じゃないと思うんだけど、こうやって疑ってばかりいるから大成できんのかもしれない。天風先生万歳!
(文・クーロン黒沢)



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