プノンペン通の行くお店

80年代末、池袋サンシャインすぐ脇に「ありのす」という古ぼけた喫茶店があった。朽ちかけた建物、絡みつくシダ系植物、おしゃれとは程遠いスナック的内装。もちろん客など常に皆無で、実はこの店、私の同級生の親が経営していた。

この「ありのす」の隣に、同じく(若しくはそれ以上)汚らしいラーメン屋があった。当時の基準でもヤバそうな店だったが、こちらは毎日行列が絶えず、常に大繁盛だった。その店の名は「大勝軒」──。と、ヨタ話はこのくらいにして、キタナイ店だからこそ、何か秘密があるのでは? 的な考え方は世界共通なのか、ここプノンペンでも、うっかりすると寄生虫の活き造りが出てきそうな路肩の薄汚い店が大繁盛。鳴り物入りで登場した欧米系のピザチェーンは閑古鳥。みたいな光景をしばしば目にする。

その流れで、私の住んでいる場末エリアに佇む、昼なお暗い自動車修理工場。文字通り、真っ昼間に修理工の顔が目視できないほどに薄暗く、手の届く場所は全て油まみれ。地面はネバネバ。近所には真っ二つにぶったぎられたボディの転がる怪しいニコイチ工場もあるが、明らかにそこより四ランク下の薄汚さ。ところがこの工場、なぜかいつも、妙な車を直している。


画像のGT-Rをはじめ、911カレラ2、ハマーH1、H2、ランドローバー、珍しいところではフィアット・バルケッタ(初代)。など。かと思えば、車高を目一杯上げまくり、おじぎ状態のタクシー仕様おんぼろ25年落ちカムリもドックイン。実はもの凄く腕のいい店なのかもしれないが、五体投地のチベット人も顔負けにズダボロな修理工たちの姿を眺めるに、ここでレストアした車を買う気はちょっと……。
(文・クーロン黒沢)



“プノンペン通の行くお店” への1件のコメント

  1. うらへい より:

    お疲れ様です。
    ……おお~、懐かしい 町の光景ですね!
    また、D●N寿司の “宝海巻き(⇠和食風に命名すれば。意味は 崩壊ロール)” は健在でしょうか?
    サージェント氏、ご生存とのことです。
    今年の夏の 浮遊人 には、何か 差し入れぐらい させていただきたく考えておりますが――

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