木曜コラム : プノンペンの名も無きお寺で思いを馳せる

市民の憩いの場となる広場、公園の類が少ないプノンペン。その役割を担っているのは何を隠そうお寺です。

市中心部からロシア通りを空港方面に進み、タックタラ市場にほど近いTERAガソリンスタンド斜め向かいを左折したところに、両脇を広大な空き地に挟まれた名も無き(あるんだろうけど)お寺があります。

ロシア通りから続く全長200メートル程の参道には、不気味なセメント像が等間隔に並び、空が紫色に染まる明け方に来れば、まるで魔界転生──といった感じですが、この参道、一日を通し多くの人で賑わいます。

サンダルでジョギング、ウォーキングを楽しむ健康志向の御仁。バトミントンに興じる腐女子、いや婦女子。黄ばんだサッカーボールを蹴り合い住職に罵られる若者たち。

昼は木陰で訳ありのカップルがいちゃつき、かと思えば一人ぽつんと瞑想する青年。野良犬、野良猫。

夕方になると健康志向軍団の脇を工場帰りの女工さん達が列をなして歩き、そのうち数パーセントの割合で混じっている色気づいた女工を一本釣りすべく、所在無げにぶらぶらたむろするチンピラ軍団。そんな不良を白い目で眺める家族連れ。彼らに食料を提供する屋台……。

私はこの寺に一年余りほぼ日参し、カンボジアの寺に何故か必ず置いてある土左衛門のオブジェに腰掛け、通り過ぎる人々をひたすら眺め続けました。達観するその日を夢見て……。

しかし長い月日を経てわかったこと。それは、寺におけるナンパ成功率が意外と高いこと、午後六時半を過ぎると羽虫の集団に追われること。野良犬は夜が来ると凶暴になること。以上三点のみでした。皆さんは真似しないように。
(文・クーロン黒沢)

健康維持寺

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