なんでも腐りかけたものが一番うまい:賞味期限切れの雑学
牛は殺してからすぐ食べるより、二週間ほど熟成させたほうが旨い。キムチでも納豆でもヨーグルトでもクサヤでも、なんでも腐りかけたものが一番うまいのよ。
てなわけで、香港の雑学もすたれきった今ぐらいが歴史的価値も出て読み応えあると思うんですが。かつて香港に「香港通信」という伝説のタウン誌があった。香港パソナがバブルの頃発行していたもので、すでに休刊中。美味しい店やらどうでもいいショッピング情報は二の次で、胡散臭い情報やニュース、町のマイナーネタばかり掘り返す編集方針に胸を打たれ、わざわざ日本で定期購読していた。
なかでも、誌名を世界(?)に知らしめたと言われるキワモノ編集長・吉田一郎時代の香港通信は、いま読んでもまったく色あせず(注・気のせいかも)、かえって新鮮な印象すら受ける。
そんな香港通信は休刊したが、元香港通信のスタッフで創刊したという「週刊香港」が辛うじて面影を維持している。
とはいえ、吉田編集長のキチガイじみたパワーと企画の独自性(風俗情報誌レビュー等)はもう戻らない、つくづく氏の退職が惜しまれる今日このごろ。
名物編集長の吉田氏は、香港通信脱退後一体なにをしていたのか、全くもって不明。何冊か香港関係の著作を残し行方不明となり、二年くらい前、突然埼玉県からさいたま市長に立候補。
ハンストしたり騒ぎを起こしたりしつつ、わたしの友人で元傭兵というDJ北林もなぜか熱心に彼の選挙活動を支援していたが、あえなく落選(最下位とは千票差)。その後の行方はよくわからない。
そんな吉田氏の忘れ形見とも言えるのが「香港的秘密」と「香港街伝」の二冊だ。どちらも氏が香港通信に連載した企画をもとに作られている。
香港的……は、香港の超適当なローカル新聞に掲載された妙な事件を、面白おかしく解説するというもの。
「亭主関白を貫くために近親相姦した父」「義理の娘(12)を強姦した父親。しかしアナルセックスだったため、強姦罪には当たらないと法廷紛糾」「15歳の娘が近親相姦される。しかし娘は全盲だったので犯人が兄か父かで大揉め」「悲劇、ちびっ子組員・男色親分のえじき」……近親相姦ネタが多いのは気のせいだろうか。
このほか、香港のマイナー新聞・ラジオ・ミスコンをとことん調べまくったコラムもまた、字も小さくて密度たっぷり。
「……街伝」はその名の通り、九龍城砦や重慶マンションの詳細な図解をはじめ(吉田氏は九龍城砦に住んでいた)。伝言ダイヤルで女の子とメッセージをやりとりした話、無くなりつつある広東オペラ(油麻地の裏路地でやってる奴)の劇団員インタビューなど、どこか懐かしい町ネタが中心。
九龍城砦は公園になってしまったし、重慶マンションは外側はともかく小キレイなゲストハウスが増え。広東オペラも現在活躍する年老いた劇団員たちにお迎えが来れば、近い将来消えて無くなってしまうだろう。伝言ダイヤルはもうない。とまあ、珍しくともなんともないヨタ話でも、十年寝かせれば充分懐かしいネタになるんですね。
懐かしいといえば、こんな本も出てきた「和製ドラゴン放浪記」。在りし日の香港映画で活躍した倉田保昭氏の自伝である。
表紙はジャッキー・チェンと笑顔で微笑む若き日の倉田氏。そんな氏は日芸の合気道部時代「鬼の副将」と恐れられ、部員の背骨を折ったりしながらも、木造アパートで「男おいどん」のような極貧生活を送り、六本木の喫茶店でウエイターをしながら、鍛えた身体がなまっていゆく様をなす術もなく嘆いていた。
そんなとき、当時アジア全土で飛ぶ鳥を落とす勢いだったショウ・ブラザースが帝国ホテルでオーディションを行うことになり、だめもとで参加。そして合格。宿舎としてあてがわれたラブホテルで「中国人は前戯に時間をかけないようだ」と呟いたりしながらも、台湾で監禁状態にされ、密航で抜け出そうとして失敗したり、映画のような出来事が次から次へと倉田氏を襲う。
現在入手困難な本だが、ぜひとも読んでおきたい傑作だよ。
(文・クーロン黒沢)
はじめまして。とはいえ貴方の著書は同人誌時代からほぼすべて読んでます。そろそろ新刊ほしいです。
さて、このエントリは賞味期限切れどころの騒ぎじゃないです。
ttp://www.geocities.co.jp/SilkRoad-Lake/2917/
吉田氏はとてつもなく劇濃な「飛び地」サイト運営されてます。
その上、さいたま市議議員に何度か当選しちゃってますし。
濃きは濃きを呼びつけるのでしょうか……。
このご時世なので、本を書いている場合ではないようです……なーんて。私もそろそろ何か出したいんですが──