埼玉の語り部。グゲエ、グゲエ、ゲコゲコ
日本に一時帰国。近頃の下条君は人生の70パーセントをダウンロードに費やしているということで、データが消えたときのバックアップという意味もこめ、幾つかエロいところこをおすそわけしてもらうことになった。
まずは秋葉原の安売り店で120Gのハードディスクを三台購入。無愛想な店員から受け取ったブツをもってミスターPBXと合流。そのまま埼玉の奥地に向かう。
夕刻、群馬県との国境地帯にほど近いF町の下条邸に入ると、既にレバノン田中がハードディスク持参で駆けつけている。彼も同じ目的のようだ。
下条君のマシンには田中氏の新品ハードディスクが接続され、クイックフォーマットではなく、ご丁寧にも格式にのっとってゆっくりフォーマットされていた。終わるまで一時間はかかるだろう‥‥。時間の無駄なので、下条家の車(走行距離15万キロ)に乗り、F町に隣接する中規模都市・K町まで飯を食いに行く。
K町は駅前のナンパでも有名な治安の悪い町。商店街のシャッターを見ると、市内の各不良組織が描いたとおぼしき下品な落書きで溢れ、土曜の夜だというのに人通りも少ない。下条君お目当ての鉄板焼き屋(値段が昭和40年代で止まったまま)は閉店していたので、近くの和食レストランで四人向かい合わせ、さみしい夕食をとる。
ネギトロ丼を食いながら、ダウンロードが趣味というメンバーの顔を見てふと思った。ああ、こういう店の勘定もデータで払えたらいいのに‥‥。「ネギトロ丼三人前にとんかつ定食一人前、しめて3.5ギガバイトです。お支払いはハードディスク直結ですか?。それともDVDですか?」「じゃあハードディスクで。レアな動画が入ってるから3ギガに負けてよ」「申し訳ございません。規則ですので‥‥」という妄想が脳裏をよぎる。
下条邸にとってかえすと、ようやく一台目のフォーマットが終了していた。いよいよコピーが始まるわけなのだが、下条君はファイルをコピーする前に必ず、そのファイルの説明はもとより、手に入れたときの苦労話やエピソードを語らずにはいられない性格のため、気がつくとコピーを始めて三時間以上経つにも関わらず、全体量の20パーセントも終わっていなかった。
でも下条君は解説をやめようとはしない。外ではカエルが物悲しい声で鳴いていた。
(文・クーロン黒沢)