サッポロ一番塩ラーメンを煮込み、涼しいところに40分放置したようなスパゲティ
日本から下条君が来ている都合上、普段外で食べる機会があまりない私が外食三昧の生活を送っている。
先日ピザを食いに行った店は、よれたイタリア人店主が視界の中で料理を作り、味も良かった。なので今日もスパゲティ食いますか──と提案するが、同じ店に行くのも芸がないので63ストリートにある未体験の某ピザ屋を訪れる。この店の二軒隣にある海南鶏飯の店は、プノンペンで食えるチキンライスの中で多分一番うまい。だけど昨日食ったので今日は喰いたくない。
目指すピザ屋には客が一人も入ってなかった。まあこの町では良くあることなので気にせず着席。すると、慇懃を通り越して気持ち悪いほどペコペコするウェイターが登場。僕はピザを食うと胃がもたれるような気がしてカルボナーラにした。どっちもどっちだけどな。下条君はバジルスパゲティを注文した。結局、二人ともパスタだった。
しばらくして料理が完成。やけに量が多い‥‥。ちょっとこれ、三人前くらいあるよ!で、カルボナーラはハムがずらずら。他には具がなにも入ってなかった。少し前に知人から「ハムなんて食ってると防腐剤で早死にするよ」と言われたばかり。あんまり気にしない性質なので食いました。でも、ここのハムは冗談抜きで防腐剤が他所より沢山入っているような気がしました。なんでだろう?
見かけまずそうな料理、喰ってみると本当にまずい。自分はかなり好き嫌いなく、どんなにまずいものでもニコニコしながら食える自信がこれまであった。でも目の前にあるコイツは厳しかった。サッポロ一番塩ラーメンを長めに煮込み、40分くらい涼しいところに放置したらこんな感じになるだろうか? 具はハムだけ。量は洗面器一杯。あなたなら食えますか? そりゃ、三口くらいなら食えますがね。
下条君のバジルもまずそうだった。実際聞いたらまずいと答えていた。麺の上にバジルペーストの塊というか、赤ちゃんの緑便みたいなのが無造作に載せてある。彼いわく、のびた冷麦みたいだそうな。僕は冷麦があんまり好きではないので、これを聞いてますます食えなくなった。
時が過ぎ、スパゲティは大半が残ったまま。残すと店の人たちを傷つけてしまうかな──と思い、がんばって食ったんだが、まだ軽く二人前半くらい残っており、しかも周りのホワイトソースを吸収して放っておくと段々量が増えて行くような感じすらする。まるでドラえもんがバイバインをふりかけてくれたかのように、麺の体積は見る見る増えてゆく。
と、そこに突然、日本人らしき眼鏡の女の子が入ってきた。同胞特有の相手をあえて無視するようなオーラを出しており、こちらとは視線ひとつ合わせようとせず、胸に一冊の雑誌を抱えている。
あのう、スパゲティは頼まないほうがいいですよ。とかなんとか忠告してあげたかったものの、私に話し掛けないで! という気配が強く、こちらもその意志を尊重して黙る。彼女の入店時、健康ランドと入れ墨の話をしていたのが気に障ったのだろうか。変態バックパッカーだと思ってるのかな? ま、当たってないこともないので何も言うまい。
先ほどから下条君が横目でチラチラ女の子を観察している。僕からは死角になって見えないので感想を聞くと、読んでいるのはグラビア主体のおいしい店を紹介した雑誌だそうな。無論、プノンペンではなく日本のおいしい店だ‥‥。美食に興味があるのだろうか? だったら目的地から最も離れた場所に来ちまったな。墓穴を掘ったようなもんだ。そう思った。
時が経ち、女の子のテーブルに注文の料理が置かれた。ピザだ! ここのスパゲティは神懸かり的にまずいが、ピザは遠くからでも美味そうだった。さすがはおいしい店の本を持ってウロウロしているだけのことはある。
あまり不味い不味いと書きすぎたので、店の名や写真は伏せますが、本当に心の底からまずいと思いました。以上。