ひとくちブックガイド:アル中地獄

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ある日、Pさん(仮名)とカトマンズのレストランでお茶していたところ、向かいに座ったPさんがいきなり財布から赤い錠剤を出して口へ放り込んだ。どっからどうみてもヤーバー。

「ぴ、Pさん、それもしかして……」と口ごもると、「あ、これヤセ薬。タイの薬局で買ったんだけど、よく効くよ。でも眠れなくなるんだよ」とニッコリ。

「それヤーバーですよ?」
「なにそれ?」
「どっからどう見てもヤーバーですって」
「タニヤの薬局で処方してくれた薬だよ!」
「ますますヤーバーですよ」
「ヤーバーって何だよ!?」

というわけで実際ヤーバーだったわけだが、本人知らないから平気な顔して持ち歩いていたという次第。捕まらなかったから笑い話で済むが、売る方も売る方。まあ、良識があったらタニヤで薬局なんか開かないか……。

このような事態を避けるため、たとえ興味が無かろうと、ドラッグに対する知識をつけておくのは自衛手段として有効だ。体験談ばかりのドラッグ本は役に立たずつまらないと言う人がいるけど、体験談ではないドラッグ研究書は読んでも眠くなるばかり。宇宙がどうのこうの、心の扉がどうのこうの、ひたすら言われても眠くなるが「見えてしまったもの、聞こえてしまったもの」をストレートに書いたものはそれなりに興味深い。

さて、ドラッグは社会の害毒。と目くじら立てる前に酒をなんとかしろ! と思うのはわたしだけじゃないだろう。

アルコールは好きでも嫌いでもないが、アル中は最低のジャンキー。身近な人間が酒で壊れてゆく姿を見るのはヘロインで壊れる人を見るより辛い。ヘロインなら、人格ぶっ壊れるだけの「気持ちいい」見返りは充分得ていると感じるが、酒で人生棒に振ってる人は本当に損してるというか、哀れである。

アル中クライシス」は随分昔(1989年)に出版された本だが、最近増補して再登場。著者はアル中で入院回数36回(日本新記録)の邦山照彦氏。

1970年代に早くもアル中だった邦山氏は「酒も飲めない奴は男じゃない」と知人の正弘君(下戸)に説教。正弘君はがんばってがんばって遂に毎晩一升あけるようになり、布団にウンコを漏らすまでの男に成長するが、動脈瘤が破裂してこの世を去ってしまう……。

正弘君を酒浸りにした邦山氏もその後、妻が発狂するに至って酒の量がますます増え、LSDも真っ青の幻覚が見え始める。起きればUFOの編隊が空を飛び、廊下には十字軍。当然、精神病院に連れていかれるが、病院では頭蓋骨が爆発(幻覚)。思わず助けを求めると、散らばった脳を周りの患者さんが集めて元に戻してくれたそうだ。めでたし。

数日後、退院を許された邦山氏。早速帰り道にワンカップ三本一気飲み。田舎でレストランの経営を始めるが、アルコールを切らさないよう飲みまくるので精一杯。ある日、衝動的に店の金をかき集めてハワイに高飛びしてしまうけど、ハワイでも酒飲んでるだけ。金が尽きたところで帰国してレストランは倒産……。

アル中治療で訪れた病院の看護婦といい仲になるが、アル中なのでチンコが起たずバカにされ、酒が無いときゃ墓場に出向いてお供え物の酒を盗み、仲間からインドネシアのコーヒー商売に出資しないか──と誘われジャカルタに行けば、イスラム教国でアルコールが入手できず気絶して入院。南海の小さな島で原住民のどぶろくを飲み……。と、延々酒飲んでる話ばっかり(当たり前か)。

禁酒会でいかれた面々と知り合うなど、酒に絡んだ出会いもあるが、出てくる人が全員揃って生きる目的「酒だけ」。きりがないのでこのへんでやめとくが、世の中で最もアホらしくて怖い麻薬は酒と煙草であろう。

って書くと、絶対アルコール派から反論あるんだよな。ま、自分がハマってるものに対してとやかく言われたくない気持ちは分からなくもない。
(文・クーロン黒沢)



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