ひとくちブックガイド:恨まれて、恨まれて、子育てって大変

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むかーし「日本一醜い親への手紙」というひどい本が話題になった。

結構売れたらしく(わたしも買った)「子どもを愛せない親への手紙」「さよなら 日本一醜い親への手紙」「少女たちからウザいオヤジへの手紙」とシリーズ化され、アダルトチルドレンと呼ばれた人々たちの「傷のなめ合い」に、大きな役割を果たしたと思います。よくわかんないけど。

「お父さん、あなた、幼かった私をイタズラしましたよね……覚えてるんですよ」
「お母さん、僕のことを随分折檻しましたよね。そんなに憎かったですか?」

というように、敬語調で語られる粘着質な子から狂った親への憎しみたっぶり。1ページ読み進むたび目の前が暗くなり、やる気がなくなり、落ち込み、負のパワーが周りに置いてある別の本を汚染しそうなくらいドロドロしていたものだ。

最近、改めて読み返してみようと思ったが、徒歩10歩のエリア内に置いてあるにも関わらず、手に取る気がしない。日本の親子関係がこれだけ病んでいるわけだから、アメリカはもっとすごいだろうと言う想定のもと「狂気の詐欺師一家――その愛憎と破滅の物語」に挑戦。

著者のケント ウォーカー氏(掃除機のセールスマン)は、本書の主役級である詐欺師ばあさんの実の息子。一旦ぐれかけたものの、現在もれなく死んだり服役中な楽しい一家の中で唯一、堅気の道を歩んでいる。

気違い家族の中で唯一「おれだけはまとも」と自負するだけあり、常識的かつ冷静な口調で非常識な思い出話を淡々と語るのであった。ママのサンテはボインでキュート。見ようによっては中年期のエリザベス・テーラーに似てなくもない。貫禄も充分。明るくて、社交的で、頭がいい。でも頭の中は金と名誉と盗みと詐欺と嘘のことでいっぱいだ……。

ママは万引きが趣味で、子供だったボクにも手伝わせる。男は次々ととっかえひっかえ。生活が苦しいわけじゃないのに、始終趣味の犯罪に手を出し、なんとかして家族を巻き込もうとするので何時も破滅寸前。そんなママは億万長者の男と再婚するが、ボクが実のパパ(前夫)になついていたので、一時はパパを殺そうとしていた。パパは今でもママのことを恐れている。

再婚したママは、金の心配なんてしなくて良いのに、ますます万引きや盗みや詐欺に熱中するようになった。新しいパパ(頭が少し弱い)は最初ママをコントロールしていたが、次第にコントロールされる側にまわり、最後は犬のように服従。

そんなママは退屈すると時々、自分の家を燃やして火災保険を騙しとる。ボクも何回か炎にまかれて死ぬところだった……。さて、めでたく大人になったボクは、ママに不利な証言をした近所のおばさんを殺すよう命令された。アリバイ工作にも利用されていたみたいだ。ボクは断ったけど、すっかり洗脳されている弟は何回か殺人を請け負っていたようだ。

でも……。ここまで悪逆非道な扱いをされたとしても、ボクらはママのことを心の底から憎みきれないんです。だって、いいママだから!

てな感じで、殺しから放火から盗みから、犯罪のフルコースを犯しながらも、子供たちから愛され続ける偉大なママ。少々叩いたくらいで恨みつらみを投書される日本の醜い親たちにも是非見習ってほしい。

著者は激情したママに血が出るほど殴られ、鉄アレイみたいな灰皿をぶつけられ、無一文で数ヶ月も置き去りされたり、囮にされたり、下手すると中国の浮浪児よりひどい扱いを受けている。

そうかと思えば高級車(盗難車)を「誕生日プレゼントよ」と気前良く与えてくれるママ。ショッピングセンターでひっかけてきた(ママが)頭の弱そうな女の子(騙されてる)を世話してくれたりと、いたれりつくせりの一面も。

子供の頭は大混乱。そうか、メリハリをつければいいのか。中途半端な育て方が一番良くないんだな。と、子育てについて深く考えさせられた。
(文・クーロン黒沢)



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