ひとくちブックガイド:人生の先輩は日々ボケてゆく

人生の先輩……それは老人ですよね。

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人間とは薄情なもので、家のローンを親の金で返済しようが、親の年金で車やバイクを買い換えようが、散々スネをかじろうが、産まれたときオムツをとっかえ、ミルクを与えてくれようが、ボケてしまったら最後、老人ホームや介護施設へゴミのように放り投げ、死ぬまでその存在を忘れてしまう。

常日頃「人間と違い、畜生は情がない」と爬虫類や豚を馬鹿にしている我々、ある意味それよりひどいことをしている人も大勢いる。

スタイルシートをカッコ良くカスタマイズして「今日はトラックバックが多かった。ブログは世界を変える!」とか喜んでる暇があるなら、ちょっとばかり恩人にやさしくしてやったらどうだ。肩のひとつも揉んでやったらどうだ。と説教じみたことを言ってみたわけですが、お元気でしょうか?

姥捨て山に捨てられたおじいさん、おばあさんはどうしているのだろう。気になるよね。だったら「痴呆系・素晴らしき痴呆老人の世界」という本を読んでみるなり。

著者は三年間、ボケ老人の施設で働いていた介護助手。少々古い本(1997年)で、版元が版元だけに入手はかなり困難(多分)であるが、一読の価値はある。刺激の強い内容なので、読む人によっては激しい嫌悪感を催すかもしれない。

重態の老婆を横目に「もうすぐ死にますよね?。今月中に死んでくれないと、オーストラリア家族旅行の前金、もう入れちゃったんですよ。おばあちゃんもこんな化け物みたいな状態で長生きしたくないわよねえ。生き恥さらすってこれよねえ。早くあの世に行きたいのよねえ。だから……」と意味深な目線を送ってくる泉ピン子似の嫁。……末期癌の激痛にうなされ、しばしばモルヒネ注射で痛みを和らげている老婆に、著者が思わずねぎらいの言葉をかけると「いいかい、内緒だけど本当はそんなに痛くないんだよ。ただ注射打たれると頭ん中が花畑になってね。お兄ちゃんも一本キツいの打ってもらいな。天国だよお」とウィンク。

介護士の暗黒面、無邪気なボケ老人の暗黒エピソードが余すところなく語られています。

そこまでリアルじゃなくてもいいんだけど……。ならば女性ヘルパーの視点からイカレ老人を眺めた「ホームヘルパーは見た」がお勧めだ。ネタはライトだが、随所に散りばめられた小気味よいジョークはどす黒い。もちろん老人介護ときってもきれない「下痢便」や「上半身に反して元気すぎるイチモツ」など下半身系の話題もフォローしつつ、真面目に介護問題を語るという、あとで読み返すとかなり器用な内容だ。介護斡旋会社のピンハネ率や細かい決まりごとなど、本格的に介護士を目指す人にとってもためになる内容である。

この二冊、パッと見、ボケ老人の奇行をネタにゲラゲラ、ウッヒッヒッと楽しんでるだけように思えるが、実は行間で今の歪みきった家族関係や介護のあり方を批判しつつ、福祉や老人問題に全く興味がない読者の頭にも入りやすいように、とっつきやすいように、面白おかしく書いてあるのだと思う。

そんなもん、いちいち「ふざけてる」とか「不適切な内容だ!」とか怒ったり抗議してる暇があるなら、老人の入れ歯でも磨いてやろうではないか。
(文・クーロン黒沢)



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