ひとくちブックガイド:幸せは人それぞれ。人生だって人それぞれ
メリークリスマス!(とっくに終わってる)
さて、世界むるるん紀行第二回ですが、前回にも増して厳しいテーマを選びました。世の皆さんが呆然とする姿が目に浮かびます。先日、毎コミのAppleII本を読んで影響を受けてしまったのです。すみません……。第三回は子供から大人までにっこりできるテーマを模索することにしましょう。
人生には浮いてるときと沈んでいるときがある。
「浮き」の感じ方は千差万別。Aさんにとっての最低最悪デーが、Bさんにはまあまあ幸せな日だったり、人それぞれ。コンビニで万引きしたベビースターにぬるま湯をかけてかじる瞬間「ああ、不幸のどん底」と天を仰ぐA君。しかし遠く離れたB君は飢餓にあえぐコンゴ共和国の密林地帯で弟を殺し、その肉を歯でかみ切っている最中だった! みたいな……。
「アメリカ重犯罪刑務所―麻薬王になった日本人の獄中記」の著者・丸山隆三氏は、写真で見ると考古学者の吉村作治にヤーマーを五錠食わせたような風貌。つまり、邪悪な考古学者風である。
当時アメリカに住んでいた丸山氏は、84年から六年間、コカインの仲介をやって暮らしていた。その結果、税務署に申告できない金がネズミ算式に増えてしまい、仕方なしに毛唐のチンピラを用心棒に雇い、スーパーモデルを何人も引き連れ、自家用ジェットでラスベガス。クルマはフェラーリ。映画スターと飯を食い、1ドル札はかさばってむかつくので(理由は不明)何千枚も集めてから海岸で燃やしていたという。ブルース・ウィリスも俺のダチだった……だって。キヒイィィッ。
その後まもなく「一円をバカにする者は一円に泣く」というおばあちゃんの教え通り、丸山氏は数十台のパトカーとヘリコプターに銃撃戦を挑み、その姿が全米のお茶の間へテレビ中継された後、懲役七年の判決を受けた。収監先は凶悪犯罪者の巣窟と言われるレベル4の刑務所だった。
刑務所の中、そこは一袋のラーメン(マルちゃん)の貸し借りを巡り、黒人とヒスパニックが殺し合う世界。しかし、世渡りのうまい丸山氏は巨漢のサモア人をお菓子で手なずけボディガードに仕立て上げ、大量のビー玉を埋め込んだチンコを見せてアメリカの囚人たちからリスペクトを受ける。その後、恋人紹介業、揉め事解決、その他色々やってるうち、遂に「ゴッドファーザー」と呼ばれるまでに……。つまりは地獄の刑務所って言いつつ、実は結構楽しかった。みたいな話だ。
対するは「キャバレー日記」の和田平介氏。
和田氏は法律に触れるような悪いことなんて金輪際したことがない素敵な小市民である。しかし、目黒エンペラー(ラブホテル)での勤務経験を同人誌で発表するなど、多少どす黒い一面も持つ。
そんな和田氏が次のステップとして潜入したのが、大手ピンクキャバレーチェーン「トロントグループ」(1981年の本です)。
面接に赴いた和田氏は課長から「おめでとう。こんにちは」と即採用。今から働いてくれと頼まれてそのまま入店。軍艦マーチのバックで「どっこいどっこい、ほれよいしょ、ソリャソリャ。当店自慢のハッスルトロント娘さんも、ラストのラストまでお客様に密着サービスよろしくお願いします。さあ、またまた一名様ご案内中、よいしょそれどっこい!」と叫び声がこだまする素敵な職場に期待を膨らませる。
席ではホステスさんが客のイチモツを握り、センズリの真っ最中。和田氏は恥ずかしさのあまり顔をそむけてしまうが、三日もすると適応してしまい「よいしょソレほらいけ! 当店は赤坂・六本木にあるような気取ったキャバレー、すましたキャバレーではございません。どうぞ、ネクタイをゆるめ、ファスナーをおろし、お時間の許す限りたっぷりハレンチにお遊び下さいませ。ほれどっこいしょ!」と自ら叫び、「大衆キャバレーのホステスなら、最低シコシコサービスくらいはできないとまずい……」と、日記に書いてしまうのだった……。
そんな感じで最後まで、日記形式で大衆キャバレーの人間模様がこれでもか! と書き綴られている。
善人ではあれど、なにかあるたびあれこれ苦悩し、日々を清らかに生きる和田氏と、刑務所で「ゴッドファーザー」とあがめられ、お菓子で手なずけた二メートルの黒人をアゴで使う丸山氏を比較して、どっちか選んで生まれ変われ。と言われたら──。丸山氏に決まってるよねえ。和田氏には申し訳ないが。あなたはどちらの人生を選ぶ?
(文・クーロン黒沢)