カンボジアの素:プノンペンのマルチ商法
この記事は90年代にミニコミとして出版したガイドブック「カンボジアの素」に書いた記事を復刻したものです。後年、情報を追記したりしていますが、全体的に古すぎ、記述が攻撃的で、正確ではありませんので、読んで懐かしむ程度でお願い致します。
ローカル雑誌で見つけた謎の広告……。怪しげな毛唐のおっさんと札束の山。上のほうには Hawaii,Hongkong,Shanghai, Malaysia….と脈絡のない国名が列挙され、Japan Natural Groupという会社名がプリントされている。
日本ナチュラルグループ? 一体何の会社なのか。とりあえず事務所を訪問しろ!と書いてあったので行って参りました。町外れのかなり立派なビルでした。
駐車場は車でいっぱい。中は人でいっぱい。二階にはソファがズラリと並び、壁際には日本製の磁気布団(10万円)とか、健康サプリ(ひと瓶1万円)が所狭しと陳列されている。もう、マルチの匂いが疑いようもなくプンプン漂ってくる。
壁にはナマズ顔のおっさん(社長?)と会員たちの記念写真がぎっしり。呆気にとられていると、女性社員からコの字型ソファに腰掛けるよう指示され、座るやいなや、両脇を社員にがっちり固められる。どの国も同じ手口なんだな。と感心してしまった。
かわいらしい女の子は資料片手に、システムの解説を熱っぽく繰り広げる。お馴染みのネズミ算チャートや階級システム。トップセラーの肖像などが目に入り、汗をだらだら流しながら帰る口実を考えていると、奥からネクタイ姿の中国系男性が、訝しげな表情で近寄ってきた……。
「日本人ですか?」
男は流ちょうな日本語でそう言った。そう、正真正銘の日本人だった。私はてっきり、そのへんの中国人が客寄せのため「ジャパン」を名乗っているだけかと思った……が、れっきとした日本企業とのこと。
ナマズ顔のおっさんは社長だそうで、表に停まっていた戦車みたいにでかい白のベンツは社長の専用車らしい……。二ヶ月前にオープンしたばかりで、これから地方にも展開してゆくとのこと。正直、展開してほしくないのであるが、私がするなと言ってもするだろうから、ぐっと言葉を飲み込んだ。よりによって、日本人がカンボジアでマルチの会社を興すとは……。
男は私たち(ひとりで行くのは怖かったので、四人で突入しました……)をまるで泥棒でも見るような目つきでながめながら、それでもひととおり日本語で詳しく解説してくれた。
でも、早々にひやかしムードを悟ったのか「フリードリンクありますから、よろしかったらどうぞ」と言い残し、時間を無駄にした。と言わんばかりの表情で去っていった。お忙しいところすみませんでした。
そんなわけで、プノンペンではこの日系マルチ企業の他にも、複数の似たような会社が結構大っぴらに活動している。規制もなにも無いのか、テレビでコマーシャルを流している会社があるくらいなので、今はともかく数年後、大変なことになると思う次第であります。
(文・アジアの素編集部)