思い出の曲
椰子の木が揺れるタイの三流デパートの片隅にある屋台で
椰子の木が揺れる、タイの三流デパートの片隅にある屋台で、大体三本百円くらいで叩き売られているしょぼくれたテープの数々……。最初はジャケの印象だけで選び、メンコみたいな雰囲気でコレクションしてました。いまでもそうだけど。
整理すんの面倒くせえから捨ててしまったものも結構あるが(一回も聴かないまま)まだかなりの数が残っている。私が買ってるおかげでこれらのアーティストに印税が入っているわけなので(多分)、あんまり責めないでください。ではスタート。
世界温食難:客家歌王:張少林
元は夜の市場で物売りをしていたという客家出身の苦学生・張少林は、マレーシアに暮らす客家人に対してあらゆる放蕩を自らの歌で戒める。
愛滋病(AIDS)の歌では、「人生好色即ち短命」と叫び、喫煙を戒める又講愛戒煙では「飯後口煙はこれ神仙の如き快楽。しかし死期は早まる」と歌い、しかも商品名をモロに連呼するアグレッシブさも失わない。まさに客家青年の模範である。(この項だけ本当)
顔色の悪い二人組とタイトルロゴの拳銃と手榴弾が気になって買った。
ルークトゥンというのはタイのイサーン地方を地盤とするドロ臭い演歌の数々を総称して言う。リズムにのってラップ風に歌詞を連呼するモーラムというのもあり、僕はモーラムのほうが好きです。それはそうとこの二人、営業で結婚式にでも行ってきたのでしょうか。左手の男の顔色が異常に真っ白なのも心配です。
真ん中の男の目つきに感動して購入。右横にいるおばさんも、あまりにも普通すぎて不気味。左横の男は胸元を開いてセクシーさを強調している。
借金だらけでうだつのあがらない一家。一転奮起して歌手デビューを目指す長男(女好き)。一人だと心細いというので、いやいや長男をサポートするはめになった姉(子持ち)と弟(前科三犯)といった感じで、ものがなしい歌声はモゴモゴしていてなにを言ってるのかよくわからないが、それなりに悲しみは伝わってくる‥‥。
例の男が単体で登場。歌舞伎役者を見習ったのか、顔を白く塗りたくっているのだが、単体デビューの自信からか、顔は微妙ににやけている。小さくて見にくいが暗い四色に彩られた趣味のいい蝶ネクタイにも注目。
苦し紛れのファミリーによる歌手デビュー。しかし何を間違ったのか人気者となってからは、逆にギャラの値上げをせがむ兄弟たちがうとましくなっていった。そこで町の殺し屋に依頼して兄弟を脅し、無理矢理引退させた後で単体デビューを果たす。といった感じ。
警察の留置場にシャブでぶちこまれてそうな親父。衣装も撮影場所も超適当なのがわかる。もう少し一本一本に力を入れていたら‥‥。
ヤーマーにはまって激ヤセするが、もともとアル中だったので辛うじて体重を維持している。ラリッていたときに同僚を撲殺して刑務所に送られるが、ムショで出会った牧師さんにリスペクトして詩を書くようになり、子供たちに「正直者になれ」とメッセージをこめた唄をうたう。てな感じか。
一見すると害のないエリートサラリーマンに見えなくもない男。ジャケ写真なのになぜかネクタイが微妙に曲がっている。誰も注意する人がいなかったのか、もしくは嫌われ者なのか‥‥。
もともとサラリーマンだが、趣味の盗撮がばれそうになり騒ぎ出したOLを誘拐。たっぷり楽しんだあとに生き埋めにして、そこでバラの花を栽培。以来、肥料が足りなくなってくると誰か殺さずにはいられなくなった哀れな男といった感じ。
大胆に開かれたシャツの胸元は農家の娘を激しく誘惑する。村一番のプレイボーイといった風格だ。しかし、このヘアスタイルはなんとかならなかったのだろうか。
村一番のハンサム青年(自分でそう思っている)として名を売って、唄もうまいんだぜとカラオケで近所の人に披露。それを見ていた詐欺師が歌手デビューしないかと話をもちかけ、すっかり信じてあり金ぜんぶ巻き上げられてしまうが、友達に歌手デビューするんだぜと触れ回ってしまった手前、後にひけず、仕方なく親に借金して10本だけ作った限定品。といった感じ。
首から下げたペルーの民芸品みたいな笛が気にかかる中年男。バックにひろがるサイケデリックな背景は、もしかして若者を意識しているのだろうか。
人生生まれてこのかた、一度もいいことがなかったというさえない男。しかし49歳の秋、スーパーマーケットのくじで一等賞をひいてしまい、家族そろってメキシコご招待。しかし親はメキシコの強盗に襲われて事故死。妻と子供は車にはねられて重症。なかばヤケになり道端で売っていた笛を買ってタイに帰国。家の中で暇つぶしに吹いていたら、隣に住んでいた金持ち(演歌カセット会社社長)が哀れに思ったのだろうか、一本やってみるか? とオファーをくれて製作。といった感じ。
今回一番まともそうなジャケット。後ろの伝統芸術みたいな絵がいい味出している。まともすぎて、ちょっと失敗したかなという思いも。
ピサヌロークで警官を勤めて20年。賄賂も沢山とってきた。もちろん、恨みも沢山かってきた。そろそろ足を洗う頃か‥‥と、押収したヤーマー三万錠を売りさばいて警官をやめ、その金で一旗あげようと、なにを勘違いしたのか歌手デビュー。といった感じ。
なんともいえない取り合わせ。七三分けの髪型といい、首からぶらさげたプラクルアンの束といい、後ろの水牛といい、なにを言いたいのかさっぱり分からない。ジャケのタイトルに書かれたタイ語に秘密が隠されているのだろうか?。
銀行員として働くアウトドアな男、週末は田舎で水牛を育てるのが密かな趣味。ところがある日、盛りのついた水牛に襲われ側頭部を強打。それからは人が変わったような荒くれ者になり、見境いなく暴力をふるう町の嫌われ者に。勤め先の銀行もクビになったが、髪型は七三分けのまま、入院中に目覚めた宗教のお守りを身体中につけて出勤。何度か警察の世話にもなった。困り果てた家族が金を出し、もう厄介ごとを起こすなという条件で、カセットデビューさせてくれた。といった感じ。
なにも語る必要はないだろう。アーティスト本人が発禁レベル。生産する前に面接とかしないのだろうか。
生まれながらに○○○だった息子。しかし幸いなことに親父は某携帯電話会社の重役だった……。世の中微妙なバランスで成り立っているものである。親父は○○○な息子を目に入れてもいいくらい可愛がり、甘やかし、息子は小学生の頃から女でもなんでも、金の力で思うがままに与えられてきた。そして勘違いは次元を突破し、アイドルになりたいと言い出す。親父も流石に面食らったが、それでも音楽業界の重鎮に圧力をかけ、ついに念願のデビューを果たす。といった感じ。
これもある意味、最終兵器。なんだかさっぱりわからないジャケ。ただ凄い。意味を教えてくれるなら一万円くらい払ってもいいかも。
生まれつき失明というハンディを背負ったが、負けることなくギターを担いで酒場を渡り歩くサングラスの青年。彼の夢は組織の使い走りをしている父のような、立派な入れ墨を入れて自慢すること。しかし目が見えないだけに、ドラえもんを彫られてもわからないから怖い。その恐怖に耐えている日常を唄にこめて叫ぶ。といった感じ。かもしれない。
(文・クーロン黒沢)
思い出の曲 http://t.co/Y2rg3ncC59
ヤーマーではありません。ヤーバーです。 さりげなく失礼します。
昔はヤーマーだったんですよ