クメール民族大移動:たまの休暇はお家でゆっくりと
折角の連休だから遠出してみようか! 時期を顧みない安易な旅行計画は地獄への片道切符です。
お盆(プチュンバン)のある日。拙者木村はホーチミンへのバス移動を計画しました。お盆とはすなわち、首都プノンペンに住む人々が一斉に帰省する時期にあたります。特に今年は選挙人登録と重なり、例年にも増して人の流れがすごかった。私はこの国の帰省ラッシュをなめていました。なめていたというか、完全に忘れていました。
午後三時プノンペン発ホーチミン行きの某バス。通常なら約五時間後の午後八時頃にはホーチミンに着いてしまいます。
この日、バスは途中まで順調に走っていました。私も余裕をかまし、景色の流れる車窓を眺めながら無料のパンをかじり、時折ウトウトしていました。
出発から一時間半後。バスはスバイリエン州の入り口・ネアックルンの渡し場に差し掛かります。川にはまだ橋がないため、車も何も全てフェリーでピストン輸送されますが、渡し場の五キロ手前で事件は起こりました。フェリー待ちの大渋滞です。
先が見えないレベルの渋滞。バスを降りて歩いてみましたが、行けども行けども駐車場状態。動く気配すらありません。
「このままでは今日中に出国できないのでは?」
不安がよぎりました。私、この日の夜にホーチミンから飛行機で出国する予定なのです。間に合わなければ腹を切るしかありません。
添乗員に事情を話すと「大丈夫。安心しろ!」と何故か力強い口調でなだめられましたが、ここから先が本当に長かった。待てど暮らせど車列は動かず、次第に辺りが暗くなり、時刻は六時を回っていました。
外では、一列だった渋滞の列に後続車が続々と割り込み、さらにどこからともなく湧いてきた物乞い&物売りがウヨウヨしています。心配だった私はもう一度、添乗員に助けを求めました。
「昨日は夜10時までボーダーが開いてた。だから心配するな」
またもなだめすかされます。
バスに乗っていたのは自分以外、全員ベトナム人でした。皆さん流石に我慢の限界を過ぎていたのか車内は騒然としています。カンボジア人乗車率70パーセントのソ◯ヤバスじゃなくて本当に良かった。カンボジア人なら、ここまで騒がなかったかもしれません。
そして、プレッシャーに押された従業員が携帯電話で本社と連絡をとり、秘策を用いる許可を得ました。この国ではすでに秘策でもなんでもない方法ですが、つまりは交通整理の警察に事情を話し、これで皆さん、たまには美味しいものでも……と渡すものを渡したのです。
ちょうど六時過ぎ、バスはいきなり道路の反対車線を突き進みます。15分後、着の身着のままみたいな帰省客で埋め尽くされ、阿鼻叫喚のカオスと化した渡し場に突入。外に出て写真を撮ろうとすると、添乗員とベトナム人運転手から「ヤバいから絶対降りるな」と忠告が……。
心付けのお陰で半ば無理やり川を渡ると、その後は渋滞もなくスムーズに国境を越えられましたが、ホーチミンに着いたのは午後10時過ぎ。クメール民族の大移動シーズン。出来ればもう二度と体験したくないイベントです。
(文・木村五兵衛)
ネアックルンフェリー乗り場
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