テメーおれのオヤジが誰だか:どら息子百景
去年、フ○・セン首相の甥っ子が密かにはまっていた「プノンペン横断キャノンボールごっこ」の真っ最中、勢い余って高級車のハンドルをきりそこねてヤシの実売りを轢き殺し、集まってきたギャラリーにブチ切れ、後部座席に隠し持っていた(隠せない大きさだと思うが)AK47でそのへんの野次馬を殺戮したことは記憶に新しい。
結局、裁判では「運転・殺戮は遊び仲間でもある宝石屋店主とホテルオーナーのドラ息子たちが担当していた」ということになり、甥っ子本人には申し訳程度の刑が言い渡され、一件落着とあいなった。早い話、叔父さんの権力がモノを言ったことは間違いない。
問題の甥っ子には兄弟がいるが、この兄弟もタチの悪いことで有名。あちこちでヤバい事件を起こしているが、片っ端からもみ消して今日も元気いっぱい。夜の町を肩で風きって歩いてます。注意しよう。
ところかわって一昨年の10月。タイはバンコクの飲み屋にて。タイ製のドラ息子が「肩がふれた」だのなんだの、どうでもいい理由でブチ切れた末「テメー俺のオヤジが誰だか知ってんのか!!」のセリフとともに、捜査中の警察官を射殺してしまった。
普通の人ならたっぷりヤキを入れられて刑務所行きとなるところだが、ドラ息子の名を欲しいままにするドゥアン君はカンボジアへ逃亡。国境のカジノで遊んでいるところを何度か目撃されたりした。
ドゥアン君のオヤジ。チャルーム・ユーバムルンは警察大尉の肩書きプラス元法務大臣という大物政治家。母親は判事だそうだ……。で、ドゥアン君の兄弟も漏れなく札付きのワルであり、これまでに殺人を含む数多くの容疑をかけられたものの、被害者のほうが「告訴を取り下げるから許してくだせえ」と泣きを入れたりして、全部無罪。お互い、潰した飲み屋の数を競い合っている。
ドゥアン君はカンボジアで散々遊んだあと、根回しが済むまで姿をくらませ、最近になってマレーシアで出頭。オヤジの支持者に囲まれながら凱旋帰国。タイ国内の注目を一身に浴びての裁判となったが、結局「証拠不十分なので罰金千バーツ」との温情溢れる判決が下された。
最近タイのチャンネルをつけるたび、父子でヤクザばりのガンを飛ばしながら、マスコミの前で堂々と勝ち名乗りを上げる二人の姿ばかり放映されている。
オヤジは背広姿のときはまだしも、私服のときなどどっから見てもゴロツキ。おまけに、警察幹部に対して敵意たっぷりの捨て台詞を発するなど、この父子からしばらく目が離せそうにない。金と権力は持っているうちに使わないと損……という教訓の生きた見本である。
(文・クーロン黒沢)